「ウィキノミクス マスコラボレーションによる開発・生産の世紀へ」
原題:Wikinomics How Mass Collaboration Changes Everything
副題が仰々しいが、この本の内容は、簡単に言ってしまえば、こういうことだろう。
「Web 2.0時代の世界の経済や企業のビジネスモデルは、こんなにも大変革を迎えている。組織や個人の仕事も『ウィキペディア』に代表されるようなコラボレーションを実現できるようになった。新しい価値を生み出すためには、こうしたモデルを避けて通ることはできない。」
本書では、"Web 2.0"時代の経済やビジネスモデルがどうなっていくのか?を豊富な事例紹介や著名人たちのコメントを散りばめつつ解説している。
キーワードは、「オープン性」「ピアリング」「共有」「グローバルな活動」の4つだ。
Web 2.0と呼ばれている代表的なサービスは文中にも頻繁に登場するし、こうしたトレンドを生み出した背景や文脈を各章で丁寧に解説している。
内容全体は、広くビジネス・トレンドを把握したい読者層をターゲットにしているが、特にWebテクノロジーの現場に関わる人々に興味深いと思われるテキストをいくつか以下で引用・紹介する。
◆ネット世代の労働観
ネット世代の労働観はイノベーションを内包している。新しいものを求める。新しいアイデアを受け入れる。人生のあらゆる側面において多様性を信じる傾向が強い。自由を求める気持ちが強く、いままで人が踏み込まなかった領域まで進む。さまざまなデータから、ネット世代は、各自が権限をもってコラボレーションする職場環境、仕事と私生活のバランスがとれ、特に楽しさを重視する職場環境を強く求めると思われる。
(P.88 『嵐の中の嵐』)
かなり楽観主義的な表現だが、ネットワーク技術とインフラの整備により、物理的な制約を受けないコミュニケーションが可能になった、ということだろう。
B2CとB2Bの区別はなくなり、B2E(社員向け)サービスであっても、通常のB2Cをベースに考えなくてはいけない状況になりつつある。
◆オープンソース反対派は誤解している
トーマス・フリードマンの「フラット化する世界」はなかなかに良い本であるが、オープンソース化がパワフルであると認める一方、オープンソースの世界では、だれが何を所有しているのかが不明になり、個人も企業も自分が作ったものから利益を得られなくなるとしている点はいただけない。
(P.146 『ピア開拓者』)
本書では「フラット化する世界」以上にウェブとそこに関わる人々に対して、積極的な評価と詳細な描写を加えている。
「オープンソースは儲かるのか?」という問いは、エリック・レイモンドが『伽藍とバザール』を書いた10年程前から議論されていることだ。確かにサジ加減は必要なのだが、オープンソース化することによって活用できる開発コミュニティのリソースは、今後ビジネスの世界でますます重要になっていくだろう。
海外に目を向ければ、RedHat、IBM、Googleのような企業の戦略、国内でも個人ブランドで活躍する有名な開発者たちのことを考えれば、「オープンソースは儲からない」と、もう言えない時代だろう。
◆ウェブサービスとコミュニティのプラットフォーム
マッシュアップにはハッカー革命のイメージがあるが、現実にこの動きにつながっているのは、アマゾンやイーベイ、グーグル、ヤフーといった新しいウェブのコングロマリットが掲げる革新戦略である。新しいウェブのダイナミックな競争力を読み解くためには、この動きがどこから来て、今後、どこに向かうのかを理解することが必要だ。
(P.298 『参加のプラットフォーム』)
APIの開放とマッシュアップは、Web 2.0時代の新しい「作法」となった。マイクロソフトやヤフーは、マッシュアップ用ツールを提供しているし、サンもマッシュアップ開発コミュニティの支援に力を入れている。今後、開発者層の厚みを作っていくためには避けて通れない戦略のひとつだ。
◆ウィキワークプレイスへの目覚め
リナックスやウィキペディアなどのコラボレーションプロジェクトが示しているものは、社員を企業の階層構造に合わせようとするより、生産的な組織を社員に自律的に作らせたほうがずっと簡単で費用もかからないことが多いということだ。
このトレンドは動き始めたばかりだが、それにより、今後、人々の働き方は大きく変化するはずだ。
(P.419 『ウィキワークプレイス』)
サービス&プラットフォームの進化がビジネスを加速させ、経済エコシステムを刷新し、企業組織のあり方を抜本的に見直す。こうして、企業に属する各個人の働き方も従来以上にフレキシブルで自由なものになっていくことだろう。当然、そこには大きなリスクもあるのだが…。
それにしても、本書を読み進めていくと、縦書きでカタカナ表記されている社名やサービス名ってわかりにくいものだな、という印象を受けた。
「フリッカー」「テクノラティ」「デリシャス」「フェイスブック」「マイスペース」など、いずれも実際のウェブサービスを体験したことがある人ならば、英語表記の方がピンと来るだろう。こビジネス書とはいえ、こうした類の本は、いいかげん横書きにして出版してもいいんじゃないか?と思う。
本書は、あるシンクタンクが大手企業二十数社からの資金提供を受けて実施した膨大な調査プロジェクト(実際は3本の別プロジェクト。延べ6年近くの期間と900万ドルを費やした。)を契機として書かれたものだ。
しかし、そもそもはスポンサー付のプロジェクト群だったため、そのまま成果物を転用するわけにもいかず、共著者二人は、この本の執筆のためにさらに関係者とのミーティングを重ね、相当な時間とエネルギーを費やした。
(一昨年話題になった「フラット化する世界」も、著者トマス・フリードマンはピュリツァー賞を3度も受賞したジャーナリストだったので、当初から膨大な取材予算がついていた。アメリカの売れ筋のビジネス書は、こうした時間とお金のかけ方が、本当に凄い。)
そして、著者たちの意図したところに従い、現在この本の追補と関連コミュニティは、WikiとSNS空間上に拡張・展開している。
WIKINOMICS (公式サイト)
http://www.wikinomics.com/
WIKINOMICS (公式Wiki)
http://www.socialtext.net/wikinomics/
Facebook Wikinomics (Facebookコミュニティ)
http://www.facebook.com/group.php?gid=5733257337
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Page Last Updated: Feb 21 9:17pm by Tatsuya Takiguchi